婦人服等のリサイクルショップについて5000万円の立ち退き料を認めた裁判例

はじめに

立ち退きコラム第2回目の今回は、目白駅前にて営業していた婦人服・装飾品のリサイクルショップの立ち退きについて、5000万円の立ち退き料を認めた裁判例(東京地方裁判所平成21年10月8日)をご紹介します。

この事例の特徴としては、賃借人側は、賃貸人からの解約申し入れ後、賃貸店舗を閉店して移転しているにも関わらず、裁判所が、賃借人側の建物使用の一定程度の必要性を認めているという点にあります。

また、立ち退き料の算定についても、具体的な算定過程を明らかにしておらず、当事者双方の主張金額を考慮して算定している点にも注目です。

東京地方裁判所平成21年10月8日判決

事案の概要

  • 物件所在地:東京都豊島区(目白駅前)
  • 用途:婦人服・装飾品のリサイクルショップ
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:老朽化による建て替え(他のテナントは、明渡済又は明渡予定)
  • 賃料等:40万5600円 
  • 当事者等

 X:原告(賃貸人)。平成16年12月に本件建物を承継し、賃貸人の地位を承継。

 Y:被告(賃借人)。平成4年から本件建物内の別店舗を賃借し、リサイクルブティック店の営業を開始し、平成9年から本件店舗を賃借している株式会社。なお、本件訴訟時点では、本件店舗の他に複数の店舗の営業を行っている。

裁判所の判断-正当事由について

(賃貸人Xの事情)

本件建物が築後32年以上経過し、建物の躯体及び設備が老朽化しており、現状のままで建物を維持管理していくことが困難な状況になっていた。

⇒そこで、Xは、本件建物の建て替えを計画し、Yに対し、平成17年6月7日に、Y代理人であるC弁護士宛てに、通知書で、本件建物の老朽化を理由とする本件建物の建替えのため、本件賃貸借契約を、同年12月31日をもって解約する旨の意思表示をするとともに、同日までに本件店舗を明け渡すよう申し入れた。

⇒Yは、当初本件店舗の明渡し交渉をC弁護士に依頼していたが、その後は、Yの「顧問」であるDを介して、Xとの間で本件店舗の明渡し交渉を行った。Dは、Xに対して、本件店舗明渡しの補償として9566万4219円プラスαを要求し、その後8730万円に近い金額であれば応じられるなどと述べた。

⇒Xは、そのような金額の補償には応じることができないとしてDの申し出を拒絶した。

Xによる本件建物の各テナントとの明渡し交渉の結果、地下1階、地上1階及び4階のテナントはすべて退去し、3階及び5階の各テナント1社との間では、本件建物の取壊しの際に仮に移転することで話合いが成立し、Xとの間で立退きの合意が成立していないのはYのみである。

(賃借人Yの事情)

Yは、本件建物3階一室でのリサイクルブティック店の営業を平成4年9月以降、本件店舗での営業を平成9年11月以降長年にわたって行い、平成17年当時、8000万円を超える年間売上があり、相応の収益を得てきた。

Yは、平成20年4月7日に警報装置を取り外して本件店舗でのリサイクルブティック店を閉店し、同日から同月9日までの3日間で店舗内の商品をダンボールに詰めるなどして運搬準備をし、同月11日、それらを搬出し、同月15日より移転先である本件建物から80メートルほど離れた豊島区所在の建物内の店舗で営業を開始した。

⇒しかし、Yは、Xに対し、本件店舗を明け渡す旨話したことはなく、訴訟前のDとの交渉の際も、Yは本件店舗で新たな事業展開を計画していたこと等からすると、Yが本件店舗の使用を終了し、本件店舗を使用する必要もなくなっているとまでは認められない。

(結論)

⇒Yに対し相応の立退料等の財産上の給付の申し出がないYの本件賃貸借契約の解約の申入れには、正当事由があるとまでは認められない。

⇒立ち退き料の支払いを条件として、正当事由を肯定。

裁判所の判断-立ち退き料について

⇒Xは、本件訴訟の審理の中で、本件店舗の平成16年当時の借家権価格が704万2000円であるとして、立ち退き料として704万円を支払う旨を申し出ている。

⇒その後、本件訴訟の裁判期日にて、Xは、正当事由を補完するものとして、3800万円の立ち退き料を支払う旨を申し出ている。また、Xは、必ずしも同金額に固執しているものではない。

 

⇒平成17年当時、Yに年間8000万円を超える売り上げがあったこと等の事情を考慮すると、正当事由を補完する立ち退き料の額は5000万円と認めるのが相当である。

 

Yが本件店舗でのリサイクルショップ店を閉店し、他の移転先にてリサイクルショップ店を開業している事情は、解約申し入れ時から6ヶ月を経過した後のことであるから、立ち退き料の算定に際して考慮することはできない。

まとめ

このように、本事例では、裁判所は、(1)Y以外の賃借人が退去済み又は退去予定であり、Xの建て替え計画が相当程度具体化していること、(2)訴訟前の段階で、Yが一定の立ち退き料の支払いがあれば応じると述べていたことを重視して、賃貸人側の建物使用の必要性を認定しています。

一方、賃借人Yの側では、店舗を閉店して移転しているものの、将来的に、本件店舗での事業展開を計画していることから、賃借人側にも一定の使用の必要性を認めています。

立ち退き料の算定に関しては、具体的な算定過程は明らかにはされていませんが、審理の過程でXが申し出た金額(3800万円)と、訴訟前にYが主張した金額(8730万円)を考慮して算定しているものと思われます。

また、立ち退き料の算定に際して、裁判所は、Yが店舗を閉店・移転している事実は、解約通知の通知期間満了後の事情であり、立ち退き料の算定において考慮することができないと判示している点も参考になります。

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