小売店舗の立ち退き

小売店舗の立ち退きのポイント

小売店舗の立ち退きの場合、現店舗における賃借人の営業の態様や収支、他の物件への移転可能性などがポイントとなります。
小売店舗の場合、業務の性質上、飲食店舗などと比べると、営業と場所との結びつきが弱いものと判断される傾向にあります。そのため、裁判例では、近隣の代替物件への移転が可能であると判断されるケースが多く、例えば、店舗近隣の固定客からの売り上げに依存しており、かつ、物理的に移転が不可能な事情があるような場合でなければ、一定の正当事由は認められると思われます。

その一方で、通常、小売店が立ち退きにより移転することにより、賃借人に経済的な損失が生じるため、賃貸人側の完全な正当事由を認めるのではなく、立ち退き料の支払いが条件とされることが多いと思われます。

立ち退き料の算定においては、借家権価格の他、移転に伴う休業補償や、移転費用、新規店舗の入居に伴う初期費用などが考慮されることになります。

小売店舗の立ち退きに関する裁判例

1.精肉販売店舗の立ち退きについて立ち退き料3800万円を認めた裁判例

<東京地方裁判所平成20年7月17日判決>

基本情報

  • 物件所在地:東京都大田区(東急多摩川線「鵜の木」駅付近)
  • 用途:精肉販売業
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:老朽化による建て替え
  • 賃料等:20万5000円
  • 立ち退き料の認定金額:3800万円

裁判所の判断-正当事由の有無

賃貸人側の事情

本件建物は、耐震基準を満たしておらず、耐震補強に関する補強工事を含む修繕が必要であり、早晩、大修繕又は建替えは避けられない状態にある。
⇒また、本件土地の公法上の規制は、容積率300パーセントであるのに対し、本件建物の実効容積率は164パーセントと低いため、不適応の状態にある。そのため、本件建物を取り壊し、本件土地に4階建ての建物を建築することにより、建物の競争力の向上と収益の増加を見込むことが可能である。
⇒したがって、本件建物を取り壊し、新たに建物を建築するとの賃貸人の本件土地の利用計画には一定の合理性が認められる。

賃借人側の事情

⇒賃借人は、精肉販売店M屋の代表者として、本件店舗で長年に渡り精肉販売業を営んできた。
M屋は地域密着型の営業を行っており、近隣の住民やリピーターを中心に集客していることから、本件店舗ないし本件店舗の周辺で営業を継続することができなければ、固定客の喪失等による営業上の損失を被ることが予測され、賃借人が本件店舗を使用する必要性は高い。
⇒しかしながら、代替店舗が確保できれば、新たな店舗において精肉販売業を継続することは一応可能である。
⇒もっとも、店舗の移転には相当額の費用がかかると見込まれ、また、新たな店舗で営業を再開するまでの期間及び営業再開後売上げが回復するまでの期間、営業上の損失が生じることは避けられない。

結論

⇒賃貸人の主張する本件建物の建替えの必要性が、賃借人の本件店舗使用の必要性を上回るとまでは認められない。
⇒賃貸人の事情のみによって本件解約申入れについての正当事由を認めることはできない。
⇒しかし、賃貸人が賃借人に対して適正な立退料の支払を行えば、本件解約申入れの正当事由は補完し得る。
⇒立ち退き料の支払を条件に、正当事由を肯定。

裁判所の判断-立ち退き料の金額

⇒裁判所は、賃借人において立ち退きに伴い支出を要する費用として、
(1)移転に伴う休業補償 : 887万4164円
(2)営業再開後の売り上げ減少に伴う営業損失 : 598万0328円
(3)店舗移転費用(新店舗の機器設備工事費用等) : 1833万8848円
(4)現店舗の設備の撤去及び廃棄費用 : 150万円
(5)現店舗で使用している設備の保管費用 : 56万4000円
(6)新規店舗の契約費用(保証金、礼金、仲介手数料など) : 160万円
(7)移転費用40万円
を認定。

移転に伴う休業補償、営業再開後の売上減少に伴う営業損失の補償及び移転費用に加えて、諸般の事情を総合すると、賃貸人が賃借人に対し立退料として3800万円の支払をすれば、本件解約申入れの正当事由を補完し得る
⇒立ち退き料3800万円の支払と引き換えに、賃貸人の立ち退き請求を認容。

2.DVD等の買取販売店舗について立ち退き料2376万円を認めた裁判例

<東京地方裁判所平成27年1月30日判決>

基本情報

  • 物件所在地:東京都渋谷区
  • 用途:ビデオ・CD・書籍の買取販売
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:再開発計画の遂行のための建物取壊し
  • 賃料等:賃料72万7000円、管理費8万800円、消費税分4万0390円
  • 立ち退き料の認定金額:2376万円
  • 備考:賃貸人(旧所有者)による解約通知後に賃貸人から建物所有権を取得した参加人(新所有者)が訴訟に参加

裁判所の判断-正当事由の有無

賃貸人側の事情

⇒賃貸人が主張する本件再開発計画は、地域社会の発展に大きく貢献する計画として地域社会の支持を得ているだけでなく、国家的にも、前記のような都市再生法の目的等を踏まえて指定された都市再生緊急整備地域における新たなまちづくりの必要性に応えるという重要な意義を有するものである。
⇒また、本件建物を残した場合には、新施設とアーバン・コア(立体広場空間)とを結ぶデッキ等の整備や歩行者動線の確保等の観点から、本件再開発計画に重大な影響を生じさせることになる。
重要な意義を有する本件再開発計画の円滑な遂行のためには、賃借人から本件建物の返還を受け、本件建物を取り壊して本件土地を使用することが不可欠である。

賃借人側の事情

本件貸室については、多数の路線が乗り入れるa駅から概ね100メートル圏内に位置しており、建物1階の路面店舗であることなどが認められ、賃借人が行うDVD販売等の営業に資する立地条件であったことは否定できない。
⇒しかしながら、他方で、成人向けDVD等の販売買取という営業を本件貸室以外の場所で行い得ないといった事情を窺わせる証拠はない。
⇒現に、賃借人は、東京都内において本件店舗以外にも、a駅と同様に多数の路線が乗り入れる池袋駅及び神田駅からそれぞれ徒歩1分ないし2分の場所において、道路に面した建物1階部分を含む建物を賃借して、本件店舗と同じ『M書店』を運営している。
⇒賃借人全体の経営規模及び本件店舗における営業の状況をも踏まえれば、賃借人において本件店舗と全く同様に利益を上げることのできる条件の店舗を見出すことが困難であることは窺われるものの、本件貸室を明け渡すことの賃借人に与える不利益な影響が極めて大きいとまではいうことができない。

結論

⇒賃貸人及び賃借人の建物使用の必要性に関する事情等を踏まえれば、本件解約申入れについては、賃貸人の建物使用の必要性が相対的に大きいと解される一方、本件貸室の明渡しによって賃借人の営業に不利益が生じることも否定できない。
⇒そのため、本件再開発計画の円滑な遂行のためになされた本件解約申入れは、それのみで正当事由を具備しているとまでは認められない。
⇒しかし、賃借人が本件貸室の明渡しにより被る不利益は経済的損失が主であり、また、その賃借人に与える不利益な影響も極めて大きいとまではいうことができない。
本件貸室の明渡しに伴って賃借人に通常発生する損害を補償するに足りる相当な立退料を賃貸人が賃借人に支払うことにより、本件解約申入れには正当事由が具備される。
⇒立ち退き料の支払を条件に正当事由を肯定。

裁判所の判断-立ち退き料の金額

⇒鑑定による立ち退き料の算定結果を引用。
⇒不動産鑑定評価基準に基づく手法を用いて求めた、

(1)本件貸室の借家権価格:108万円
(2)公共用地の取得に伴う損失補償基準等に基づいて求めた通損補償額(営業補償、工作物補償、動産移転補償及び移転雑費補償の合計額。):2268万円

とする鑑定結果を採用するのが相当である。

本件貸室に係る借家権価格は108万円、通損補償額は2268万円と認めることができる。

⇒立ち退き料2376万円の支払と引き換えに、賃貸人の立ち退き請求を認容。

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