ゲームセンターについて4130万円の立ち退き料を認めた裁判例

はじめに

立ち退きコラム第12回目の今回は、ゲームセンターの立ち退きについて4130万円の立ち退き料を認めた裁判例(東京地方裁判所平成25年6月14日判決)をご紹介します。

この事例では、賃借人側の関連会社が本件建物の周辺にパチンコ店を経営しており、競合他社の出店を阻止する目的から、本件店舗が賃借されたという事情がありました。

裁判所が、こうした賃借人の賃貸借契約締結の動機を考慮して、正当事由を判断している点が、本事例のポイントです。

東京地方裁判所平成25年6月14日判決

事案の概要

  • 物件所在地:東京都内(東急電鉄田園都市線駅付近)
  • 用途: ゲームセンター
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:建物の老朽化による建て替え
  • 賃料等: 月額315万円
  • 当事者等

X:原告(賃貸人・法人)。遊技場等の経営を目的とする会社。昭和37年以降本件建物を所有。

Y:被告(賃借人・法人)。遊技場(パチンコ店など)を目的とする会社。平成13年6月から本件建物を賃借していた。Yの関連会社が本件建物の近くでパチンコ店を経営しており、Yは、当初から競合他社の出店を阻止することを目的の1つとして、本件建物を賃借した。

裁判所の判断-正当事由について

(賃貸人Xの事情)

・Xの解約申入れの理由は、X自身が本件建物を直接に使用するというものではなく、老朽化し耐震性能上重大な問題を抱えた本件建物を新建物に建て替えることにある。

⇒耐震性能の問題は、耐震補強工事によっても対処が不可能ではないが、本件建物は、元々の施工の質等が劣っている上、老朽化により耐用年数が経過するとともに経年相応以上の劣化を生じており、建物全体に構造的問題も抱え、耐震補強工事には建物の現在価値を遙に上回る費用を要する状態にあるから、耐震補強工事の実施は合理的かつ現実的な問題解決方法とはいいがたく、建替えによる対処を否定すべき理由になりえない。

⇒本件建物の耐震性能の問題は、震度5弱程度の地震でも人命を損ないかねないほどに深刻で、早急な対応が必要なことは明らかであるから、これを建物老朽化という現況の問題として単純に評価することは相当ではなく、むしろ、人道的見地より、解約申入れに関する正当事由の判断上は、X自身の建物使用に準じる事情として位置づけ考慮すべきものといえ、かつ、早急な対応の必要性は高度である。

(賃借人Yの事情)

Yは、本件建物をゲームセンター店舗として使用しているが、本件契約を締結した動機は競合他社による賃借開業の阻止にあったのであり、ゲームセンター経営自体は赤字であるから、本来的用法としてYが本件建物を利用する必要性は乏しく、かつ、建物の利用状況の観点からも、本件契約の存続を積極的に保護すべき状況にはない。

⇒この点、Yの契約締結動機や賃料額が割高であることからすれば、本件契約自体が現状維持されるか否かはYの大きな利害関心事項であるとはいえるものの、他人による賃借の防止を借地借家法上の正当事由の考慮要素とすべきか否かは同法の立法趣旨に照らして疑問がある。

⇒また、本件契約上、Xが本件建物を増築増床して競合他社に賃貸することまで禁止されているものではないから、Yの上記利害は、本件契約上で保護された利益ではなく、単にYの契約締結の動機であるにすぎない。

(結論)

X主張の建替えの必要性は高度であり、かつX自身の建物使用に準じる位置づけをすべきものである。

・これに対し、賃貸借契約の従前の経過上、Yに解約申入れを甘受しなければならない落ち度等はないものの、Yが本件建物を本来的用法として利用する必要性は乏しく、かつ、本件建物に対するYの利害も本件契約上保護された利益ともいえない。

⇒建替えを通じて敷地の高度利用という社会的効用が結果的に得られるということを副次的に考慮しながら本件をみたときには、本件契約の解約申入れの正当事由は、相当程度高度に基礎づけられているといえ、移転に当たって補完的な意味合いの立退料の支払がされる場合には、借地借家法28条の要件を満たすことになる。

裁判所の判断-立ち退き料について

  1. 解約申入れの正当事由が建替えの必要性により既に相当程度高度に基礎づけられていること。
  2. 他方で、耐震補強工事に代えて建替えを行うことはXにとっても費用対効果上メリットであること。
  3. 建替えが結果的にもたらす敷地の高度利用化(さらにはこれにより期待される収益性の向上)という利益も専らXが取得すること。

⇒上記の事情を総合考慮し、補完的な意味合いの立退料額として、本件建物について賃貸人が賃借人に不随意の立退要求を行う場合の賃貸借当事者間の借家権価格である8260万円(鑑定の結果)の半分に当たる4130万円を相当と認める。

まとめ

このように、裁判所は、立ち退き料の判断に際しては、建物の建替えの必要性の高さと、建て替えにより賃貸人が取得する経済的利益を衡量して、鑑定で評価された借家権価格の半額を立ち退き料として認めました。

本事例は、裁判所が、賃借人の賃貸借契約締結の目的をマイナス要素として判断しており、賃借人側としては、建物使用の必要性に関する主張内容を検討するという観点から、参考になると思われます。

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