スポーツ用品店について4憶2800万円の立ち退き料を認めた裁判例

はじめに

立ち退きコラム第11回目の今回は、スポーツ用品店について4億2800万円の立ち退き料を認めた裁判例をご紹介します。

この裁判例では、「Mスポーツ」の店舗名で全国展開している有名スポーツ用品店に対して立ち退き請求がなされており、正当事由の判断に際して、本件店舗が竹下通り沿いにあることによる営業上のメリットが考慮されています。

また、賃貸人側から、賃貸借契約終了後から明け渡しまでの間の賃料倍額損害金の請求がなされていますが、裁判所は、賃料倍額損害金条項の適用を否定しており、この点も注目です。

東京地方裁判所平成23年1月18日判決

事案の概要

  • 物件所在地:東京都渋谷区神宮前(JR原宿駅付近、竹下通り沿い)
  • 用途:スポーツ用品店

 ※ 本件ビル1階部分(本件建物1)を店舗、3階部分(本件建物2)を事務所兼倉庫として使用。

  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:建物の老朽化による建て替え
  • 賃料等: 本件建物1(1階) 月額259万4072円
                        本件建物2(3階) 月額 22万8920円
  • 当事者等

X:原告(賃貸人、法人)。資産の流動化に関する法律に基づく、資産流動化計画に従った特定資産の譲受け並びにその管理及び処分に係る業務を目的とする特定目的会社。平成19年7月に本件ビルの所有権を取得。

Y:被告(賃借人、法人)。スポーツ用品の輸出入及び販売等を目的とする株式会社。「Mスポ―ツ」の名称で、全国90か所以上で店舗を展開、東京都内には7店舗を有している。昭和53年から本件建物を賃借し、店舗の営業を継続している。

裁判所の判断-正当事由、立ち退き料について

(賃貸人Xの事情)

・Xは、平成19年5月頃から投資物件として本件ビルの購入を検討し、賃料収入を得ることを目的として、同年7月に本件ビルを買い受けた。

⇒その1年後の平成20年7月頃本件ビルの耐震診断等を実施したところ、本件ビルの耐震性には問題がある上、その排煙設備にも問題があるなどの結果が出たため、Xは、その問題に対処するための費用と将来の賃料収入を試算し比較し、また、本件ビルが相当程度老朽化していること、本件ビルの建て替えにより、本件ビルの貸室面積が増加すること等を考慮し、当初の方針を変更し、本件ビルを建て替えることとした。

本件ビルは、築後約32年の経過による経年劣化及び設備等の機能的な劣化により相当程度老朽化しており、本件ビルの建て替えにより、床面積の有効利用を図ることができる。

(賃借人Yの事情)

・Yは、現在まで約32年にわたり、本件建物1を店舗として、本件建物2を事務所兼倉庫としてそれぞれ使用し、本件店舗の営業を継続してきた。

本件店舗における年間売上げが約3億5000万円であることが認められる上、本件店舗が原宿駅に近い竹下通り沿いの本件ビルの1階部分に存することから、その場所柄、本件店舗の立地は、営業上の好条件となっているものと推認される。

しかし…

本件店舗におけるYの売上げは、Yの売上げ全体の約1.04パーセントにすぎない。

・また、Yは、本件店舗が竹下通りにあること自体が、Yの流行の最先端でありファッション性が高いというブランドイメージ戦略上も極めて重要であると強調しているが、確かに上記のとおり本件店舗の立地条件が営業上の好条件であることは推認されるものの、本件ビルには、その周辺に存する他のビルにはない特別の価値があることを認めるに足りる証拠はなく、本件店舗が、その周辺に存する他のビルではなく、本件ビルにのみ存しなければならない合理的な理由があるものと認めることは難しいというべきである。

(結論)

Xの本件各建物の明渡しを求める必要性も、Yの本件各建物の使用の必要性も、上記のとおり、いずれも専ら経済的な利益に関わるものである。

⇒前記の本件各建物の賃貸借に関する従前の事情、本件各建物の利用状況、本件各建物の現況等を考慮し、さらに、立退料について、鑑定の結果のほか、X及びYが申し出ている金額等の事情をも総合して考慮すると、XがYに対して本件各建物の明渡しと引換えに立退料4億2800万円鑑定の結果に証拠及び弁論の全趣旨により認められる相当な額の移転雑費等の諸費用及び営業休止補償の額を加算した金額)の支払をすることによって、本件解約申入れについての正当の事由が補完される。

※ 立ち退き料については、Xは1億5775万4880円の提供を申し出ており、Yは5億4650万円を主張していた。
⇒裁判所が実施した鑑定では、立ち退き料は合計3億9260万円と評価された。
鑑定結果(3億9260万円)に、移転雑費等の諸費用、営業休止補償の額を加算し、4億2800万円と算定。

裁判所の判断-賃料倍額相当損害金について

Xは、賃料倍額損害金の規定に基づいて、YがXに対して本件各賃貸借契約が終了した日の翌日である平成21年8月1日から明渡済みまで賃料の倍額に相当する損害金の支払義務を負うものと主張している。

しかしながら、本件のように解約の申入れについて正当の事由があると認められるときに賃貸借契約が終了する場合には、賃貸借契約が終了するか否かは正当の事由があると認められるか否かによるが、その正当の事由の有無の判断を当事者がすることは困難であり、解約の申入れの時点において賃借人に正当の事由の有無の判断を求めるのは、賃借人に困難を強いることになることは明らかである。

賃料倍額損害金の規定は、賃貸借終了の原因が債務不履行による解除や合意解約による場合を想定したものであって、解約の申入れについて正当の事由があると認められるときに賃貸借契約が終了する場合は含まれない趣旨の条項であると解することが相当である。

Yは、Xに対し、本件各賃貸借契約の終了の日の翌日から本件各建物の明渡済みまで賃料に相当する額の損害金の支払義務は負うが、これを超えて賃料の倍額に相当する損害金の支払義務まで負うものではない。

まとめ

このように、本事例では、立ち退き料として4億2800万円の支払うことを前提に、正当事由が肯定されました。

立ち退き料の算定に関しては、裁判所が実施した鑑定結果において3億9260万円との鑑定結果が出ており、移転雑費等の諸費用、営業休止補償の額を加算して立ち退き料が算出されています。
鑑定結果が高額になった理由は判決文のみからは明確ではありませんが、原宿駅近くの竹下通り沿いという立地条件が影響したものと考えられます。

また、裁判所が賃料倍額損害金規定を適用を否定した点に関しては、立ち退き事例では、同様の請求がなされることが多いため、今後の事例でも参考になるものと考えられます。

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