日用雑貨の輸入販売店舗について3000万円の立ち退き料を認めた裁判例

はじめに

立ち退きコラム第7回目の今回は、日用雑貨の輸入販売店舗の立ち退きについて、3000万円の立ち退き料を認めた裁判例(東京地方裁判所平成28年3月18日判決)をご紹介します。

この事例の特徴としては、賃貸人側が、耐震性能不足による建て替えを主張し、耐震診断の結果を証拠として提出しているところ、裁判所は、賃借人の建物使用の必要性の判断に際して、耐震性能に問題のある建物にて営業を継続することは賃借人の顧客にとっても危険であるとして、賃借人側のマイナス要素として考慮している点にあります。

また、この事例では、立ち退き料の算定について、賃貸人が提出した調査報告書を参考にしつつも、各費目ごとに精密に再検討を行っており、その思考過程が参考になります。

東京地方裁判所平成28年3月18日判決

事案の概要

  • 物件所在地:東京都内
  • 用途:小売店舗(日用雑貨の輸入販売店舗)
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:耐震性不足による建て替え
  • 賃料等: 月額40万4250円
  • 当事者等

X:原告(賃貸人、法人)。本件建物の所有者。

Y:被告(賃借人、法人)。日用雑貨の輸入、日用雑貨の卸売り及び小売業、宝石の輸入販売等を行っている。平成5年に本件建物を賃借し、ヨーロッパにて輸入してきた日用雑貨を販売するための店舗(本件店舗)を営んでいる。Yは、本件店舗の他、練馬店、成増店、吉祥寺店、吉祥寺エリール店の計5店舗を営んでいる。

裁判所の判断-正当事由について

(賃貸人Xの事情)

・耐震診断報告書等によれば,本件建物に係るis値は,X方向において地下1階から地上9階まで,Y方向において地下1階から地上8階までにつき,is値が0.6をいずれも下回り(Y方向1階で最低値0.4),耐震性能が疑わしく,補強対象とする建物であると判断された。

⇒本件建物は,コンクリート圧縮強度調査結果により,すべての階で設計基準強度を下回り,また,低強度コンクリート(5ないし7階)があり,大地震時に崩壊する可能性が高く,非常に危険であり,本件耐震補強計画案は一時的な安全を保持するものと考え,改築(建替え)を強く推奨するとされたものである。

・Xが,本件建物につき,自らが入居の上,使用する必要性はないとしても,建物の所有者及び賃貸人として,耐震性に問題のある建物をそのまま放置し,賃貸することは問題であり,かつ,補強工事を施しても,一時的な安全が保持されるに留まり,耐震性の問題が解決されないにもかかわらず,2億4000万円以上の費用を要する補強工事を実施することは合理性を欠き,かつ,現実的ではない。

⇒Xにおいて,本件建物を取り壊そうとすることについては,正当な理由があるというべきである。

(賃借人Yの事情)

・Yは,平成5年以降,現在まで,本件建物部分において,ヨーロッパで輸入してきた日用雑貨を販売するための店舗(本件店舗)を営んでいるが,本件店舗の売上げは,5店舗全体の約3割程度を占めている。

本件店舗は,長年,現在の所在地で営業し,地元に根付き,幅広い年齢層の顧客が来店する店舗である

⇒これらの点においては,Yにおける本件建物部分を使用する必要性は高いというべきである。

・他方で,本件建物の耐震性には問題があり,かつ,補強工事によって対応することも合理性を欠き,かつ,現実的ではないところ,本件建物部分における営業は,Yの顧客に対しても危険な面があるものであり,被告の建物利用の必要性を重要視することは相当ではない。

Yは、本件建物部分を明け渡した場合、Y自体の営業が困難となるため、立ち退き料の支払いを受けても正当事由は具備されないと主張するが、

  1. 耐震性に問題がある建物において営業を継続すること自体、Yの顧客にとっても危険である
  2. 本件建物の近隣において、代替物件が存在しないとは認めがたい
  3. Yは、本件店舗以外にも4店舗を経営している
  4. 本件建物を立ち退くことによる損失は、立ち退き料の支払いにより一定程度補うことができる

ことからすると、Y自体の営業継続が困難になるとまではいえない。

(結論)

・Yにおける使用の必要性を考慮してもなお,本件建物部分の賃貸借を継続させることは相当ではないというべきであるが,Yにおける建物使用の必要性や,本件建物の現況等に照らし,立退料なくして正当事由が具備されるということはできない。

Xに,裁判所の相当と認める立退料を支払わせることにより,正当事由が具備される

裁判所の判断-立ち退き料について

・Xが証拠として提出した、立退料調査報告書(立退料を2160万円と算定)を引用した上で、同報告書の金額に修正を加え、3000万円と算定。

(1)借家人補償に準じる価格:165万8880円

(代替建物の新規支払賃料と現行賃料の差額)×24ヶ月分×1.08
=6万4000円×24カ月×1.08
=165万8880円

(2)工作物補償:2000万円

⇒Yは、平成5年の入居当時、内装デザイン費用を含め、2000万円を下らない費用を支払ったと主張、また、移転による内装造作設備に係る工事費用としては、2656万8000円を下らないと主張。

⇒訴訟中に提出された見積書等から認定できる、営業開始時の工作物関係費用は、1391万円程度である。

⇒しかし、平成5年当時の資料全てが現存していないとしても不自然ではなく、Yの代表者の供述が直ちに信用できないとまではいえない。また、今後、Yが新規建物に移転した場合、移転先に即したデザインや設計を要することが予想される。

⇒これらの事情の一切を考慮して、工作物補償としては2000万円とみるのが妥当。

(3)営業休止補償:508万9439円

  • 休業期間中の収益減補償:        112万円
  • 固定的経費の補償:            98万4738円
  • 従業員手当補償              54万2784円
  • 得意先喪失に伴う損失補償        145万8614円
  • 店舗等移転に伴うその他費用の補償     53万4303円
  • 移転先の内装工事等の期間に係る家賃補償  44万9000円

(4)その他補償:156万5420円

  • 動産移転費用            100万円
  • 移転先選定費用            50万9520円
  • 法令上の手続きに要する費用       2万0300円
  • 移転旅費                3万5600円

上記(1)~(4)の合計は、2831円程度となる。

本件建物の耐震性能に照らし、Xにおいて、合計額をすべて負担すべき義務があるとは必ずしもいえない反面、Yは、本件建物部分に係る賃借についての一定の権利または利益を有していることを考慮し、本件に現れた一切の事情を考慮して、立退料の金額は、3000万円とする。

まとめ

このように、本事例では、賃貸人が提出した立退料の調査報告書に修正を加え、最終的に総合判断を行い、立退料として3000万円を認定しました。

注目すべきは、工作物補償について、開業当時の内装造作の工事費用に関して見積書等の客観的証拠では約1391万円の費用しか認定できないにも関わらず、開業当時の資料が全て現存していないことも不自然ではないとして、2000万円の費用の認定している点です。

本事例のこの判断は、立ち退き料の審理において、当事者・代理人が、いかに説得的な主張を行うかが重要であるかを再認識させるものであると思われます。

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