釣り具販売店について3237万3000円の立ち退き料を認めた裁判例

はじめに

立ち退きコラム第5回目の今回は、東京都台東区の釣り具販売店の立ち退きについて、3237万3000円の立ち退き料を認めた裁判例(東京地方裁判所平成26年12月19日判決)をご紹介します。

この裁判例では、賃貸人(大家)側が、建物の朽廃・老朽化による耐震性能不足を理由に立ち退きを求めており、耐震性能不足の点に関して、台東区長から耐震改修等の実施の勧告・指導を受けている点が特徴です。

また、立ち退き料の算定について、建物の取り壊しが、単なる賃貸人の私的利益だけではなく、一定の公益目的から要請されるものと認めており、賃貸人側の有利な事情として考慮している点がポイントです。

東京地方裁判所平成26年12月19日判決

事案の概要

  • 物件所在地:東京都台東区
  • 用途:釣り具販売店舗
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:建物の朽廃による建て替え
  • 賃料: 月額120万円
  • 共益費: 月額30万円
  • 当事者等

 X:原告(賃貸人・法人)。貸室業等を目的とする株式会社。

 Y:被告(賃借人・法人)。釣り用品の販売、製造、加工等を目的とする株式会社。昭和53年5月から本件建物を賃借し、釣り具販売店舗を営業

裁判所の判断-正当事由について

・本件建物は、築43年の古い建物であり、本件耐震診断により、耐震性能を示す同建物の「Is値」は、基準値を下回り、「地震の震動及び衝撃に対して倒壊、又は崩壊する危険が高い」とされている

・Xは、台東区長から、平成24年12月3日付け及び平成26年2月24日付けで、本件建物の耐震性能の不足を指摘され、耐震改修等の実施の勧告及び指導を受けている。

・本件建物の耐震改修を補強工事によって実施しようとすると、同建物がY方向の西側(特定緊急輸送道路側)がカーテンウォールで敷地境界一杯であり、かつ、東側も敷地境界一杯に建っているため、外部補強が不可能であり、全階内部補強とするしかない。

⇒しかし、全階内部補強工事を行うと、賃貸物件としての使用が不可能になったり、通路が確保できず、居室として使用することもできなくなるなど、建物の使用勝手が著しく悪くなるほか、同工事の工事費用は2億1600万円(税込)と見込まれるなど、社会経済的な観点からすれば、補強工事を実施するのは現実性が乏しく、本件建物を建て替える必要性が高い。

・本件建物には、現在、本件建物部分を使用するY以外に、同建物の8階及び10階にそれぞれテナントが入居しているところ、いずれの賃貸借契約も平成26年12月31日までの定期建物賃貸借契約であり、賃貸借期間期間満了後の退去が予定されている。

上記の各事情に加えて、XがYに対する立ち退き料の提供を主張している事情を考慮すれば、Xの解約申し入れに対して正当事由を認めることができる。

裁判所の判断-立ち退き料について

・不動産鑑定士による借家権価格の鑑定を実施。

⇒借家権価格について、借家権割合法によれば3360万円、移転補償額によれば5100万円としたうえで、後者の5100万円を鑑定評価額としている。

もっとも、本件鑑定は、本件建物の耐震性能が不足し、耐震改修等が必要であることや、本件建物の部分の明渡は、賃貸人であるXにとっても不随意であることが考慮されていない。

本件建物は、本条例所定の特定沿道建築物に当たり、同建物の耐震化は、震災時における避難、救急消火活動、緊急物資の輸送及び復旧復興活動を支える緊急輸送道路の機能を確保するため、沿道建築物が地震により倒壊して緊急輸送道路を閉鎖することを防止するという公益目的から要請されるものである。

⇒また、本件建物が築43年の老朽化した建物であり、本件鑑定においても、その経済的残存年数は約2年とされ、本件建物の上記耐震性能不足を考慮すれば、大規模な修繕等を実施することは考え難いため、上記経済的残存年数を大幅に延長される可能性が乏しく、Yは、そう遠くない時期に店舗を移転する必要が生じることが予想される。

これらの事情に照らせば、耐震性能不足に起因する本件建物の取壊しのため、本件解約申入れの正当事由を補完する立退料の算定において、賃貸人の建物使用の必要性等の賃貸人の私的利益を確保するため建物の明渡しを求める場合の立退料の算定と同一視することはできず、衡平の見地から、本件建物の取り壊しによって生じるYの損失を賃貸人であるXだけに負担させるのは相当でないというべきである。

具体的には…

借家権割合法によって立退料を算定する場合には、本件建物の現状及びYによる今後の長期の使用が困難であることを考慮して、本鑑定で算定された3360万円の2分の1に相当する1680万円をもって借家権価格とすべきである

 

移転補償額によって立退料を算定する場合には、現状において、Yが当分の間は本件建物部分を使用することが可能であること、及び、Xは、Yから本件建物部分の明渡しを早期に受けることにより、東京都が平成27年度まで実施している耐震性が不足する建物の建替えの実施に対する助成制度を利用できる可能性があることを考慮して、差額賃料補償のうち賃料差額及び一時金運用益については、本鑑定のとおり、賃料差額を1344万円〔月額新規支払賃料206万円-月額実際支払賃料150万円〕×補償期間24か月)、一時金運用益を32万8000円(〔新規月額賃料206万円×10か月-本件賃貸借契約の保証金1240万円〕×運用利回り2%×2年)と認める。
⇒一方、Yは、遠くない時期に本件建物部分の使用ができなくなり、新たな店舗を賃貸し、その費用を支出する必要が生じることを考慮して、差額賃料補償のうちの新規契約に関する手数料等及び移転費用、営業補償費、内装費補償費、広告宣伝費等については、本鑑定で採用された各項目の金額の2分の1である合計1860万5000円(〔新規契約手数料等206万円+移転費用200万円+営業補償費1450万円+内装費補償費1430万円+広告宣伝費等435万円〕×1/2)と認める。
⇒上記を合計して、移転補償額を合計3237万3000円(1344万円+32万8000円+1860万5000円)とする。

上記の借地権価格及び移転補償額のうち、賃借人であるYが実際に負担する現実の支出をより填補できる移転補償額3237万3000円を、本件解約申入れの正当事由を補完する立退料として採用するのが相当である。

まとめ

このように、本事例では、裁判所は、建物の耐震化が公益目的から要請されるものである点や、本件建物の経済的残存期間が短期であり賃借人の移転が必要となるという点を考慮して、不動産鑑定士による立退料の算定結果を修正して立ち退き料を算定しました。

立ち退き料の算定が、単に賃借人側の事情のみならず、賃貸人の使用の必要性等の正当事由を基礎付ける事情を総合考慮して算定されるという意味において、非常に参考になる事例であると思われます。

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