バーの立ち退きについて1100万円の立ち退き料を認めた裁判例

はじめに

立ち退きコラム第4回目の今回は、東京都内のバーの立ち退きについて、1100万円の立ち退き料を認めた裁判例(東京地方裁判所平成21年6月23日判決)をご紹介します。

この事例では、賃借人が貸室にてカクテルなどを取り扱うバーを営業していましたが、都内で他にも10店舗の飲食店を営業しているという事情がありました。また、賃借人は、裁判当時、立ち退きの対象となる本件店舗の向かいに、新たな飲食店舗(ワインバー)をオープンさせていました。

これらの事情が賃借人にとって不利な事情となり、立ち退き料の算定に影響が生じている点がこの事例の大きなポイントです。

東京地方裁判所平成21年6月23日判決

事案の概要

  • 物件所在地:東京都内
  • 用途: 飲食店(バー)
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:建物老朽化による建て替え
  • 賃料等: 賃料月額17万8500円
  • 当事者等

 X:原告(賃貸人、法人)。平成18年9月に本件建物を含むaビル及び敷地を購入し、前所有者から賃貸人の地位を承継。

 Y:被告(賃借人、個人)。平成13年7月に、前賃借人であるC(Yの母)から賃借人の地位を承継し、本件建物にてバーを経営。

裁判所の判断-正当事由について

(賃貸人Xの事情)

・本件建物のあるaビルは、昭和33年に建築され、築後50年を経過した建物であり、外壁等における亀裂や建物の傾き、鉄筋及びコンクリートの劣化等が認められ、耐震性についても危険を有すると診断されている。

aビルは、朽廃には至っていないものの、相当程度老朽化が進んでいるものというべきである
⇒特に、このような建物の地下1階にある本件建物は、防火設備の面でも問題があり、現に最近発火事故があって、防災上の不安もある。

・aビルが老朽化した建物であることなどから、地下1階をYが賃借している以外、Xにおいて今後第三者に賃貸することは困難であり、本件賃貸借契約の賃料も月額17万8500円とかなり低額である(Yも認めるところである。)。

Xとしては、aビルを経済的に有効な利用ができない状態にある

Xにおいて、安全の観点から、また、敷地を含む不動産の有効利用の観点から、早急にaビルを取り壊す必要性があるものと認められる。

(賃借人Yの事情)

Yは、平成13年9月に母から本件建物の賃借人たる地位を承継し、飲食店を営むようになったものであり、営業の必要性が認められる。

⇒もっとも、Yは現在都内を中心に11店舗の飲食店を経営しており、本件店舗はそのうちの1軒にすぎない。

⇒しかも、最近本件建物のすぐ近く(通りをへだてて向かい側)にワインバーを開店している。

(結論)

⇒Yにも本件建物における営業の必要性は認められるものの、上記のとおりの事情に照らすと、適正な額の立退料の提供により、明渡しの正当事由は補完されるものというべきである

裁判所の判断-立ち退き料について

Yは、別の場所で同様の店を開業するためには、少なくとも、店舗移転費用として2469万円、移転のための人件費として210万円、移転告知宣伝費用として75万円、運転資金として3060万円(6か月間の人件費・家賃等1260万円と1年6か月間の利益1800万円)の合計5814万円の費用がかかるとして、5000万円ないし1億円の立退料を要求している。

⇒しかしながら、上記のとおり、そもそも本件店舗は老朽化した建物内にある店舗であり、しかもYは最近本件建物のすぐ近くに飲食店を開業しているのであって、明渡しを認めるに当たり、別の通常のビルにおける新規店舗の開業に必要な費用をすべて賃貸人であるXに填補させるのは明らかに行き過ぎである。

Yは、新しい店はワインバーであって本件店舗とは客層が違うと主張するけれども、基本的には洋酒の提供を中心とする飲食店であることにはかわりはなく、本件店舗が閉店しても新しい店により相当程度営業は代替されるというべきであって、この点に関するYの主張は採用できない。

本件において立退料を検討するに当たっては、Y主張の移転費用等を考慮する必要はなく、本件店舗を閉店することにより新しい店でカバーできない営業利益を中心に検討することが相当である。

本件店舗における平成20年の利益は約700万円であると認められるところ、本件建物の店舗としての使用可能年数を5年間と考えると、正当事由を補完する立退料の額は、本件店舗の5年間分の利益の約3割であり、現在の賃料(月額17万8500円)の約5年間分である1100万円と認めるのが相当である。

まとめ

このように、本事例では、賃借人Yが、本件店舗を移転して別の場所で開業するための諸費用(約5800万円)を主張したのに対して、裁判所は、これを排斥して、本件店舗の5年間分の利益の約3割相当額、かつ、賃料の5年間分相当の1100万円を相当な立ち退き料として認めました。

裁判所がこのような算定方法を採用した理由としては、賃借人が本件店舗の近隣に新店舗を開店しており、新店舗の営業により、本件店舗の経済損失がある程度填補されると考えられる点にあると思われます。

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